不妊症の治療は、大きく「一般不妊治療」と「高度生殖医療」に分けられますが、ここでは一般不妊治療について述べることにし、高度生殖医療については別途述べることにします。
 初診時スクリーニング検査や系統的不妊症検査で子宮、卵管や卵巣の器質的異常が存在し、これが不妊原因であると診断された場合、早めの摘出術あるいは形成・修復手術を考慮します。また、排卵障害に対しては排卵誘発剤の使用が、男性因子に対しては人工受精の併用が考慮されます。これらの事項をふまえて、次に述べるステップアップ治療に入ります。

○ステップアップ治療の一例

  • 不妊症一般検査・性交のタイミング指導 6カ月間
  • 排卵促進・黄体機能の賦活(クロミッド・黄体ホルモン剤・hCG注射薬などの使用) 6カ月間
  • 排卵誘発(過剰卵刺激)(hMG製剤の使用)・人工受精(洗浄濃縮法時にパーコール法) 6カ月〜1年間
  • 一般不妊治療で2〜3年以上妊娠しない場合、高度生殖医療を考慮(このステップの中に、必要に応じ腹腔鏡検査を組み入れる)

 人工受精とは、精液を直接子宮腔内へ注入し精子上昇を補助する治療です。すなわち、精子上昇に大きな障壁となっている子宮頚部をバイパスして子宮腔内へ精液を送りとどける方法で、不妊治療の大きな柱になっています。通常、配偶者間人工受精が行なわれ、AIH(artificial insemination with husband's semen)と言っています。AIHでは、感染などの危険性を減少させ、できる限り精子濃度を高めるために、通常は精液をそのまま子宮腔内に注入するという方法をとらず、調整した精子が用いられます。

  1. 精子調整法
    • 洗浄濃縮法
      精液と培養液を混合し遠心分離する事によって、精子のみを下層に集め、細菌や異物などを除去する方法。通常は、本法によるAIHを施行しています。
    • パーコール法
      パーコールという薬品と精液とを混合して遠心分離することにより、精子のみを下層に集める方法で、運動性の高い良質な精子を集めることができます。しかし、パーコールの安全性が確認されていない、とのことで、現在、使用をひかえています。(本法については、同意があれば使用する場合があります)

  2. 対象
    男性因子(乏精子症・精子無力症)、子宮頚管粘液分泌不全の場合に考慮されますが、ステップアップ治療の一手段としてなかなか自然妊娠が得られない場合などにも行なわれます。

  3. 方法
    卵胞計測等でできる限り正確に排卵日を予測、または調整して行ないます。日時が決まれば、あらかじめ採精用の容器をお渡ししますので、決められた時間までに提出して下さい。

    ※5回施行しても妊娠成立をみない場合には、治療方針の再検討を行ないます。
    ※精子の凍結保存について ご主人様が出張がちであったり、長期の出張予定があったりする場合、あらかじめ精子を凍結保存しておき、排卵日にあわせて融解しAIHを行なうという方法があります。しかし、融解後の精子の生存率は凍結時の半分以下となりますので、凍結精子-AIHの妊娠率は、新鮮精子-AIHの妊娠率に比し低くなります。

体外受精の目的は「妊娠」ですが、「検査」としての大きな意味もあります。体外受精を受けることによって妻の卵と夫の精子で受精がうまくいくかどうか私たちの目でチェックすることができます。これまで、妻にも夫にも何も問題がないのに妊娠できない、いわゆる機能性不妊と呼ばれるものの中には、実は、妻の卵か夫の精子に問題があって受精がうまくいかない「受精障害」がかなり含まれているといいます。子宮の中で行なわれるため、秘密のベールに包まれていた受精が、体外受精によって目で確認できるようになり、受精障害も発見できるようになりました。

  • 採卵
    排卵誘発によって、十分に成熟した卵胞から卵子を採取する
  • 培養
    1日目……調整した精子を卵と同じ培養液に入れる
    2日目……受精の確認
  • 胚移植
    3日目……受精卵を子宮腔内へ移植。良好胚が残っている場合は凍結保存

対象となる方

  • 精子の数が少ない方
  • 以前の体外受精で1コも受精しなかった方 実施方法

実施方法

  • 排卵後、顕微鏡下で1つの卵子の中に人工的に精子を挿入します。2日目、受精の確認後、3日目に胚移植をします。

  1. クロミフェン(商品名:クロミッド)
    弱または抗卵胞ホルモン作用のある経口的排卵誘発剤で比較的軽度の排卵障害、卵胞発育不全を認める場合に有効。視床下部に作用して下垂体からのLH.FSHの分泌を促して卵巣刺激作用をもたらすが、子宮に対しては抗卵胞ホルモン作用により子宮内膜の発育や頚管粘液の分泌が妨げられるため、長期にわたる使用は妊娠の成立につながらないことが多い。頚管粘液を改善するために、卵胞ホルモン(プレマリン)を使うこともある。5周期をひとくぎりとし、これで妊娠成立が得られなければクロミッドの使用を一時中断するか、次のステップに進む。

    ○使用法
    月経周期5日目から5日間内服し、12日前後に卵胞計測へ

    ○副作用
    多胎6%。目がかすむ、頭痛などの症状が出た場合は、服用を中止する。

  2. hMG(ゴナドトロピン)製剤(商品名:ヒュメゴン、hMG『日研』、パーゴナルなど)
    hMGは、閉経後の婦人の尿から抽出した卵巣を刺激するホルモン剤で、LH、FSHが含まれている注射薬(通常、筋肉注射)である。より重度の排卵障害、クロミッド無効例などに使用されるが、ステップアップ治療の一手段として、過排卵刺激のために使用されることがある。
    ※体外受精でも、より多くの卵を採取する目的からhMGで過排卵刺激を行なう。hMGは、抗卵胞ホルモン作用を持たないため、子宮内膜の発育や頚管粘液の分泌を妨げない。

    ○使用法
    月経周期3〜5日目から隔日または連日筋肉注射し、頻回に卵胞計測を行ないながら投与日数を決める。

    ○副作用
    ・多胎妊娠:多胎妊娠率:20%前後(80%が双胎、20%が3胎以上)
    ・卵巣過剰刺激症候群(OHSS)hMGにより卵巣を刺激し、hCGを投与した後に卵巣腫大、腹水(時に胸水)貯留を認めるようになった場合をいう。重症化した場合、血液が濃縮して循環動態に影響し、時に血栓症や呼吸障害を起こし生命に影響することがあるので注意が必要である。

    ○自覚症状
    腹部膨満・下腹部痛・乏尿・口渇・吐き気・嘔吐など

    ○治療
    軽症〜中等症では、自宅安静で経過観察可能。重症では、入院加療(安静に加え輸液、循環改善薬の投与、時に腹水が刺アルブミン製剤の投与)が必要となる。

    ○危険群
    多嚢胞性卵巣を呈する場合・若年者・やせ型の体型など

    ○頻度
    入院加療が必要な重症型の頻度は、hMG使用例の2%前後

    ※hMGによる排卵誘発・過排卵刺激治療を受けた方は、何か普段存在しない自覚症状が出現した場合には、がまんせずに連絡、来院していただくことが肝要です。

  3. hCG(絨毛性ゴナドトロピン)製剤(商品名:ゲストロン・プロファシー)
    hCG製剤は、胎盤から抽出されたホルモンで、LHと類似の作用を有するため、卵胞の破裂や黄体機能を賦活する作用を持つ。通常、筋肉注射。
    ※LH単独の注射薬がないため、LHの代用としてhCGを使用している。

    ○使用法
    卵胞計測により、卵胞径20mm前後に達した段階でhCG500(または10000)単位を筋注する。しばしばクロミッド-hCG、hMG-hCG療法として使用される。排卵後に使用すれば、黄体機能が賦活される。

    ○副作用
    hMG療法の際のOHSSは、通常hCG投与後に発症する。


  4. 黄体ホルモン剤(商品名:内服薬 プロベラ・デュファストン、注射薬 プロゲホルモン注・プロルトンデポー)
    排卵後には、受精卵の着床を促すために十分な黄体ホルモンの分泌が必要となる。黄体機能を補助するためにしばしば使用される。

    ○使用法 排卵後、早期より10日間前後使用する。 プロベラ4錠/日 10日間、デュファストン3錠/日 10日間、プロゲホルモン注50mg/日 12日間など
    ※消退出血(人工的な月経)を発来させるために使用されることもある。


  5. 卵胞ホルモン剤(商品名:内服薬 プレマリン・デポシン、注射薬 オバホルモンデポー)
    排卵障害あるいは無月経を認める場合、一時的または一定期間月経周期をコントロールするために使用することがほとんどである。
    ※カウフマン療法


  6. 卵胞・黄体ホルモン合剤(商品名:ドオルトン)
    おもに月経周期のコントロール、機能性子宮出血のコントロールのために使用される。時に、吐き気・嘔吐などの副作用を伴う。

  7. 高プロラクチン血症治療薬(商品名:パーロデル・テルロン)
    プロラクチン(乳腺刺激ホルモン)は、分娩後に分泌が増加し乳汁の分泌を促す作用をもつが、妊娠を望む女性の中に、この値が高値を示す場合がある。プロラクチンの分泌が増加すると、卵胞発育が障害され月経異常を起こし不妊原因になることがあり、血中プロラクチンの値が高い場合に使用される。

    ○副作用
    吐き気・嘔吐・下痢・めまい・頭痛などを伴うことがある。(少量より開始することにより副作用を軽減できることが多い)

  8. 副腎皮質ホルモン剤(商品名:プレドニン)
    自己免疫異常による習慣流産に対し免疫抑制剤として、また多嚢胞性卵巣症候群で男性ホルモンがやや高値の場合に男性ホルモン抑制を目的として主に使用される。

  9. 血液凝固抑制剤(商品名:小児用バファリン)
    自己免疫異常による習慣流産に対し、微少血栓形成を抑制する目的でアスピリンが使用されるが、低用量で充分であり小児用バファリンが使用されている。通常、1錠/日
    ※近年、妊娠中毒症や子宮内胎児発育遅延の予防という観点から、産科領域でもしばしば使用されている。

  10. 漢方薬
    @八味地黄丸(はちみじおうがん)
    血液循環改善作用があり、精巣および副性器の血行改善により精巣の造精機能や精巣上体の機能が高められることが示唆されており、男性不妊(乏精子症・精子無力症)に使用される。
    A当帰勺薬散(とうきしゃくやくさん)
    古くから月経異常や不妊症の治療薬として用いられてきた。下垂体に作用してLH、FSHの分泌を促進すると考えられているが、末梢の血液循環を改善する作用もあり、特に“冷え性”によい。
    B補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
    精巣上体管細胞増殖促進効果があることが示唆されており、精子の運動性の改善に有効であることから、男性不妊、特に精子無力症に対し使用される。
    C勺薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
    本来、内臓の痛みに対して使用される薬剤であるが、男性ホルモン分泌を抑制する働きがあるので、多嚢胞性卵巣症候群に対する排卵誘発としてクロミッドと併用するかたちで使用されることがある。
    D温経湯(うんけいとう)
    視床下部-下垂体系に作用し、LH.FSHの分泌を促進する働きがあるので、しばしばクロミッドと併用される。
    E柴苓湯(さいれいとう)
    抗アレルギー、抗炎症作用を示すことから、ステロイド剤が適応となる自己免疫的異常による習慣流産に使用される。ステロイド様の作用を持つことから、ステロイド剤の投与量を減らすことができる。